賢者の日記

賢者の日記

齢20と幾年、穴から出られなくなった山椒魚が思った事を記す。

好物しりとり

森見登美彦

私が森見登美彦氏の作品に触れたのは受験戦争真っ只中の高校三年生のとき、古本屋で見た「夜は短し歩けよ乙女」の第一ページの衝撃は今でも忘れない。よく角川文庫の巻末に創始者角川氏の文書が掲載されてあるが、硬派な文章を読む限り、この森見とかいう人間も、文学界のエライ人に違いないと直感した。程なくしてそれが勘違いだと判明するのだが、それに前後する大学入学直後、四畳半神話大系が放送された。第一話を観て、駆け足で生協の本屋へ向かった。

 

上田誠

四畳半神話大系で監督を務めた上田誠氏はヨーロッパ企画という劇団で脚本を書いている。法学部の女子に勧められてサマータイムマシンブルースという映画を見て一気に好きになった。四畳半において大活躍を収めた氏は後に夜は短し歩けよ乙女やペンギンハイウェイにて森見登美彦氏の映像化に深く貢献していくことになる。

 

神山健治

「夜は短し」に感銘を受けたと公言する神山監督は自作「東のエデン」の登場人物に「パンツ」と呼ばれるキャラを配置した。所謂森見節を使いこなし京都の四畳半に起居する等森見要素を多分に含むキャラとなった。

神山氏はその後、森見登美彦氏の「新釈走れメロス」に解説を寄稿している。

東のエデン」のEDテーマ曲を担当したのがschool food punishmentである。

 

school food punishment

ちょうど「四畳半」が放送された頃、ノイタミナで「C」という経済学を題材としたマイナーなアニメがあって、そこでschool food punishmentというバンドが好きになった。通称スクパニ。物語自体はもう少し話数の欲しいところだったが、主題歌の「RPG」が耳から離れず、アルバムを借りた。名曲揃いの素晴らしいアルバムで、なかでも「y/n」という曲は今に至るまで累計再生回数ナンバーワンの座を明け渡したことがない。

アルバム発売後、程なくして解散、後の「la la larks」となる。「たりない」は人類是非聴くべき作品だと思う。

ボーカルの内村友美氏が少し前に結婚の報告をしていた。おめでとうございます。また時間に余裕ができ、創作意欲が芽生えたりしたなら、是非新曲(と新アルバム)、お願いします。

 

内田百閒

森見登美彦氏の作品や対談を読み進めるうち、何度も目にする作家で、小説をあまり嗜まない方には馴染みがないかも知れない。大変ユーモラスな文章で読者を楽しませてくれ、かと思うと「サラサーテの盤」のように不気味な小説を残していたりする。登美彦氏が影響を受けているのが良く分かる。百閒先生は漱石門下で、芥川とも交流が深い。ここからホラー小説趣味が高じて調べていると、芥川賞作家(この言い方はあまり好きではないが)の藤野可織が同じく影響を受けたと言っていた。

 

藤野可織

可織という字面が一発で変換できないので少し迷惑。

芥川賞を受賞した「爪と目」を、まだ値崩れしない種智院通の古本市場で購入して知った。茫漠として掴み所のない、不思議な作品を書く人で、個人的には「爪と目」よりAmazonで死ぬほど評価の低い「パトロネ」という作品が好き。パトロネの主人公の、コミュニケーションに失望しているような、疎外された感覚が瑞々しく、結婚するならこんな人にすると誓っている。だから一生結婚できないと思う。この人は同志社大学出身で、そういえば上田誠氏も同学である。

 

太宰治

芥川賞が獲りたくて獲りたくて仕方がなかった話で有名な太宰治も、森見登美彦氏が影響を受けたと公言する文豪である。畜犬談、御伽草子など笑える話や女生徒、斜陽などのもの悲しい話など、その幅は広い。個人的には令嬢アユ、フォスフォレッセンスが好き。特に後者は東京旅行をした際に同名の喫茶店へ顔向けするほど好きな作品。文学史では無頼派と呼ばれ、織田作之助坂口安吾が有名である。織田作之助森見登美彦氏の「夜は短し歩けよ乙女」にて全集を読む女性が登場しているが、私はまだ読んでいないからここには書けない。

 

坂口安吾

無頼派の代表格。戦争という悪魔と、同時期の男女のあいだを描く。「戦争と一人の女」から「アンゴウ」まで、まぁ主に暗く、時々明るく戦争というものを描いている。九鬼周造先生ではないけれど、女の中の「あきらめ」「媚態」を会得していると思われる。この人の女性観は儚げで美しい。藤野可織のパトロネの主人公も好きだが、安吾の「青鬼の褌を洗う女」の主人公も好き。要するに世の中に諦めている人が好きなのかしらん。2011年に氏の作品を基に「UN-GO」というアニメが放送されていたのを先ほど知った。「UN-GO」は確かスクパニが主題歌を担当していた、と思ったら確かにそうだったので、これも驚いた。