京都怪談 紙屋川1
紙屋川は京都市右京区鳴滝付近を水源とする一級河川である。古来より水害をもたしてきた暴川であり、度重なるスクラップアンドビルドのはてに、現在では北から南までコンクリートによって堅牢に整備されている。
先輩とは法学部の学生委員会で知り合った。
輪の中心で活躍するような人ではなかったものの、明るく屈託のない話し方をする先輩の周囲には同じように朗らかな人間が集まり、私もその一人だった。
先輩は西大路千本から入った、古い学生アパートの二階に住んでいた。
深い溝を背にした急斜面に建てられた建物で、表面と裏面で眺めたときに階数が異なるという、奇妙な構造をしていた。裏面から望むと階下に隠れた二階があって、だから先輩の部屋は裏口から数えると四階相当ということになる。
コンクリートで固められた溝の底には細い川が走っていて、地理的には恐らく紙屋川であるはずだが、先輩は違うと言っていた。北野天満宮へ抜ける本物の紙屋川は一本東に流れているらしい。
この水路は先輩の部屋からも覗くことが出来た。けれども建物の構造上、二階から顔を出したつもりが不意に四階相当の景色が広がるために、まるで階段を踏み外すような不安定な感じがあった。
つづきます