賢者の日記

賢者の日記

齢20と幾年、穴から出られなくなった山椒魚が思った事を記す。

猫のまばたき

 猫を飼っておられる方ならご存知だろうが、彼らは飼い主と目が合ったとき、ゆっくり瞬きをする習性がある。

 気になって調べたところ、猫の目は構造上乾きにくく、あまり瞬きをする必要はないのだそうで、敢えてこれをするのはいわゆる愛情表現というヤツらしい。信頼しているから目を閉じられるというアピール、とか、おおかたそのあたりだろうと思う。あんまり可愛いので、それからは私も返報してやることにしている。

 そうやって猫式挨拶を採用していると、瞬きのゆっくり度合いにも差異があることに気づく。長ければ良いのか短いとどうなのか分からないが、もう十分だろうと私が切り上げると向こうはまだ閉じてたりする。そっと目を閉じる。これは切るか切られるかの瀬戸際であり、社会人でいうところのお辞儀いつ切り上げるか問題の緊張感と相似関係にある。

 猫が瞬きして、私も合わせる。逆も然り。私がはじめて、猫が追う。愛情表現に乏しい生き物であるヒト(とりわけ日本人女性)は須らくこの文化を見習うべきである。私の知る限り、私に対してこのような深い愛情を表現する女性は居なかった。

 

 そういえばこんなことがあった。

 帰りの新幹線で、眼精疲労を感じた私は深く強い瞬きをした。そのとき、トイレを見るためであろうか、こちらを伺っていたおじ様と目が合った。

 そうして気まずい思いをしながら視線を逃がそうとした私だったが、その時、瞳の隅に、ゆっくり瞬きを始めたおじ様を捉えた。

 

 私の脳はこの時、以下の思考プロセスを踏んだ。

1.このおじ様は愛猫家である

2.すなわち猫の愛情表現は熟知している。でなければ私の問いかけに返報しないからだ(私の問いかけというと意味がまた変わってくるが)。

3.キモい(お互いに)

 

 私は心の奥でおじ様に「ネコ被ってんなや!」と当たった。(インパクトに欠けるオチ)