賢者の日記

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齢20と幾年、穴から出られなくなった山椒魚が思った事を記す。

ペンギン・ハイウェイ(その1小説について)

 

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

 

 

ペンギン・ハイウェイ」は、泣く子も喜ぶ森見登美彦氏の小説である。

 

 郊外の住宅地にひょっこりペンギンが現れ、どうやら歯科衛生士のお姉さんと密接に関係しているらしい。主人公アオヤマくんは仲間とともにその調査に乗り出す。

それはアオヤマくんの成長の記録でもあり、我々読者の成長の記録でもある。

作中でアオヤマくんが一歩成長すれば、それを見つめる我々も同じだけ成長する。小説とはそんな距離感でありたいと願うものだ。これはペンギンハイウェイに限ったはなしではない。

 

 今をさかのぼること数年前、小説界に「ペンギン・ハイウェイ」が彗星の如くあらわれ個人的一大ムーヴメントを築いた。  

当初SFがどうのという帯を見て「あ、あの登美彦氏がえええエスエフ?」と動揺したものだが私の友人の岡田氏も同様の反応を見せた。

 

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突如あらわれたSF作品に当惑する私と岡田氏

 

***

 

物語の序盤

アオヤマくんは親しくするお姉さん(とそのおっぱい)に興味を持ち、お姉さん(とそのおっぱい)についてつぶさに描写する。大人っぽい科学の子もお姉さんの前で骨抜きになっているのは何とも可愛らしい。

 

ところで、アオヤマくんの興味はすなわち作者、森見登美彦氏の興味に他ならない。登美彦氏といえば、四畳半、夜は短し、走れメロスなど名作を産み落とす売れっ子小説家であるが、そのほぼ全ての作品におっぱい、お乳が紛れ込んでいる。彼の名作の影には、常におっぱいが忍んでいるといえよう。

 

そんな登美彦氏はペンギンハイウェイの映画化に際し、紙面上でこんな事を言っている。

 

-お姉さんの「おっぱい」というのは、何かのメタファーですか?

森見 いや、おっぱいはおっぱいですが(笑)(中略)また、アオヤマ君はお姉さんへの感情を、自分では恋だとあまりちゃんと認識していない。小学四年生って、微妙な時期じゃないですか。きれいごとすぎず、生々しくなりすぎず表現したかったので、「おっぱいに心惹かれる」くらいの距離感がちょうどよかったんでしょうかね。

角川書店ペンギン・ハイウェイ公式読本」森見登美彦

 

嘘をつくな!映画化したからって、今さらなにを格好つけているんだアンタは!

アンタ恋文の技術で憑かれたようにおっぱいおっぱい書き散らしていたじゃないか!今回も好きでいれたんだろう!素晴らしい!

 

話を戻す。

とにかく、私は大いにときめいた。嘘や偽り、これは、言うまい。 

お姉さん、好き。

おっぱい、好き。たまらん。

当時この腹の底から湧き上がる思いをどう表現すべきか分からず、私は本を置き「おっぱい、おっぱい」と友達の岡田氏にメールを送った。

岡田氏はややあったのち「偉大だ!偉大だ!」と共鳴した。残念ながらそこに知性は無かった。

 

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おっぱいの啓示に心おどらせる岡田氏

 

 

 物語の中盤

アオヤマくん一味はペンギンの謎について本格調査を実施する。どうやらペンギンとお姉さんには何らかの因果関係があるらしい。

私はこの辺りで「お姉さんはいい存在だな!」と同意を求めたはずだ。岡田氏は「それどころかハマモトさんもいい!」と力説した。彼の好みが一般のそれと少しずれていることがこのとき判明した訳だが、本題と外れるので深堀りはしないでおく。

 

物語が終わりに差し掛かり、あの感動的なラスト数行を読み終えた。ペンギン・ハイウェイとは何か。

思うに、ペンギンハイウェイの素晴らしさはラスト数行のアオヤマ君の独白にある。

 

すべてが終わったのち、私は本を閉じた。目から清らかな水を流していた。正確には10分前から涙している。

 

私は岡田氏に「アオヤマくんは我々のような素敵な大人になってほしいものだ。そして是非ともお姉さんと再会を果たすべきである」と語り、「そもそもお姉さんとは、アオヤマくん引いては我々の永遠に追い求め続ける謎そのものである……」と考察した。そしてお姉さんの魅力を10歌い上げ「願わくばお姉さんに会いたいものだ」と言って締めくくった。

 

 岡田氏は「これは登美彦氏の代表作の一つとなろう。俺たちもペンギンのようにヨチヨチ歩きだったとしても、前に進んでいかねば」と先見の明を遺憾なく発揮し、決意を新たにした。

 

さらに岡田氏は「お姉さんが観念的な謎の象徴であるとするならばハマモトさんもまた形而上の……」と独自の解釈を加えた。彼はハマモトさんの性的魅力を同じく10歌い上げたかと思うと「俺もハマモトさんとチェスを楽しめるよう頑張るわ」と宣言した。

 

ちなみに登美彦氏によると、彼の盟友明石氏は本作を徹夜で読破したのち、夜明けの街に向かって一人号泣し、「俺もお姉さんに会えるよう勉強しよう」と誓ったという。

 登美彦氏による明石氏の動向の報告については原文を読まれたい。

d.hatena.ne.jp

d.hatena.ne.jp

 

 このように、ペンギンハイウェイは読む者を成長させる魔法の書物である。

 岡田氏ではないが、登美彦氏の最高傑作との呼び声も高い。これは本当に。

 

次回の記事では映画について述べる。

普段映画の考察などしようと思ってもできないへなちょこ視聴者であるけれど、その2で感想、その3で個人的考察なんかも書いていけたらなと思う次第である。いち登美彦氏専門研究家として一筆入魂する次第でございます。 

 

しかし、そうはいっても。

再三繰返すようだが、私は考察の「この字」も知らぬ若造、お豆さんブロガーである。

逃げを打つようで遺憾ではあるけれど、読者諸賢、期待せず、どうかぬるい眼で読んでいただければと思うものである。

 

ところで、映画の考察には公式読本が持って来いである。

ペンギン・ハイウェイ 公式読本

ペンギン・ハイウェイ 公式読本

 

 

SF映画といえば2001年宇宙の旅であろう。

登美彦氏はソラリスの方を参考にしたそうだが。

2001年宇宙の旅 (字幕版)

2001年宇宙の旅 (字幕版)

 

 

今週のお題「平成最後の夏が来た」