賢者の日記

賢者の日記

齢20と幾年、穴から出られなくなった山椒魚が思った事を記す。

優雅な賢者的生活

賢者の朝は早い。

 朝は4時に起床、草木も眠る静寂の中、身を起こす。冬の冷気を帯びた室内に皮膚が粟立つ。室内は暗い。

 そういえば今日は日曜だと思い出す。今しがたの起床は間違いである、これは二度寝する必要があるなと判断する。夢の中に再度落ちていく。本当のところ平日でもこんな早く起きたためしがない。

 

賢者の昼は遅い。

 布団で寝ていた筈が目覚めると炬燵の中であった。時計は3時を周ろうとしている。

 急いで残り物の白飯とお茶漬けのもとを掻っ込み、勉強をばせむと図書館へ向かう。返却期限の迫った図書を返却し、勉強机を探すもどれも若者が陣取っていてしばらく使えそうもない。辺りを見渡すと、隅の方に、観葉植物と共に放置された丸椅子を発見する。

 しばらく自前の文庫本「文豪と食」(長山靖夫編:中公文庫)と向き合う。読書は勉強に含まれるかについては今なお議論の続く永遠の謎だが、餅は餅屋に訊くのが古くからの習わしにあるからにして、その論理を平衡して当てはめれば勉強は勉強机でするものである。谷崎潤一郎「美食倶楽部」の妖艶な描写に舌なめずりをして、30分ほどしたのち「さてと」と言って立ち上がる。大器を自負する吾輩の集中力は今や伸びしろに満ち満ちているといえよう。

 図書館での勉学を深める一方で、肉体の鍛錬も忘れない。今までに見た事はないものの、頭に白髪の生えてこないかが喫緊の心配事である。誰も老化には勝てないが、その端緒を目の当たりにするその日の到来が怖いといえば怖い気がする。

 して、近頃公営のジムに通い始めた賢者である。頬を擦れば柔らかく、腹を摘まめば尚のこと柔らかい身体をカチコチにせんと、一心不乱に重いものを上げ下げする。白髪と筋肉の科学的つながりについてはよく知らない。

 

 土曜、職場の人間で休みに何をしているかが話題に上がったので、正直に書いてみた次第である。ちなみにその場では美術館に行くと虚偽の報告をした。