賢者の日記

賢者の日記

齢20と幾年、穴から出られなくなった山椒魚が思った事を記す。

無題

本を読むのが好きで、学生時代は講義にも出ず、古本屋ばかり顔を見せていた。ここで専門書教科書を読んでいれば後に苦労することも無かったのだろうが、不真面目な私は小説や漫画ばかり次から次から買い漁るばかりで、少しも身に着かなかった。中には読まないのもあり、それでも尚買い足すものだから、積み本だらけの床で起居する羽目になった。

今でも本屋巡りを続けている。本さえ見ていれば幸せな人間なのである、けれど知識開けぬ田舎であるから、遠出をしないと新しい本に出会えないので迷惑している。

 

先日、隣県の蔦屋書店へ行ってみた。公共機関であるところの図書館と一体化するということで一時問題になった本屋である。

そこで私はつい先日買いそびれた梅崎春生「怠惰の美徳」を求めて館内を歩き回った。が、どこにも無い。

売れてしまったかと思い、部屋の隅に検索端末で検索をかけると、いやしかし確かに在庫アリになっている。けれど指定された箇所をいくら探しても、見つからない。

私は本棚の間で作業をしている店員さんの背後に立った。謎の機械を片手に一心不乱に仕事を進めている。何となく話しかけづらい雰囲気!

しばらくその辺りをウロチョロして、3度目に背後を通り過ぎようとしたとき、向こうで痺れを切らして話しかけてくれた。店員さんは涼しい声でお調べします、と答え、レジの方へ消えていった。

そこからが長かった。

待てど待てど、返答が来ない。その場を去るわけにもいかぬから、興味のない料理本を開いて無聊を託っていると、あたりで作業する店員さんの数が増えているのに気づいた。

恐らく、その本は無いのだろう。

私としても是が非でも欲しいものでは無かったのだが、店員に話しかけるのに往生した人間である。一度上げた手をそのまま下げることなどできよう筈もない。

店員側としても在庫切れと言うのは簡単である。けれど端末が有ると言っている以上、どこかにはあるはずで、下手に客の方で見つけられてしまうと立つ瀬がなく、となれば血を吐いてでも発見しなければならない。

とまぁ、両者の思惑が拮抗してしまい、無駄な時間を食う羽目になったという話である。

ちなみに、結局本は見つからなかったという話だ。